ついに破り捨てゴミ箱に勇んでみせる。捕われていた自分に決別 すなわち勝利である。何をやってるんだかと乗客は横目で見てきていた。上りのエスカレーターへの列に並んで頭を上げると、黒と灰色と茶色のコートばかりだ なと思う。自分も黒のジャンバーなので文句は言えない。マフラーは置いてもいい様子になってきた。この湿り気のある闇の匂い。何度目の春でしょう。破り捨 てたのは片道切符。逃げると思えば逃げるだし、正直と言えば正直だが、本心はここでの勝利に拍手喝采なのだ。だったら良かった。冬にさよなら言い忘れたけ れど、もうあんまり戻ってきてほしくない。