猫の鬱が日向ぼっこをしていたので、それを写真に撮ろうとしたら、僕のより彼女のほうが良かった。「女は近づいて撮らないと」と言われた。猫の鬱はメスで、実際にそれだけで良くなる気がした。
そんな簡単なことが一番難しい。
電車に乗って、犬山のキワマリ荘「アートドラッグセンター」最後の展覧会へ行く。デートにはちょうどいい距離で、遅くまでやっているのも嬉しい。道ばたにデジカメを向けて、ごろ寝している猫や、植木などを撮る。
有馬さんの個展「キワマリ荘の住人Ⅴ楽画鬼の引っ越し」を見る。十年間に渡る作品群。実際に絵の数は多いのだけれど量に圧倒されるという感じではなく、もっと一貫して同じ絵を見ている感じ。
可愛い奇形児に愉快な蛆蟲。生き物の中身は優しくない。だから優しくしようとする。そこに言葉が書かれて、生き物はようやく落ち着いて目をつぶることができる気がした。
あらゆる正攻法の嘘をつかぬ癒しを僕はこのアパートで見た。夜にみんなで食べにいった中華料理屋で、彼女は胃を痛めてしまったけれど。「楽しかったね」と言って帰った。
有馬さんより藤井貞和の詩集を頂いた。
僕は引っ越しについて考える。それは同時に、あらゆる正攻法の嘘をつかぬ人生についてだ。
そうやって言葉ははじまっていた。