金沢へバスで一泊二日の旅。
35ミリのフィルムカメラを小脇に抱えて、リュックひとつに一眠りすれば、すぐに金沢だ。でも、ずっといろいろ話していた。バスの中で、僕らの小さな声だけがあった。
お昼、香林坊という金沢の中心街で降りて。賑わいのなかを歩く。wiki で読んだとおりに高級ブランドショップの路面店が多い。
ハントンライスという、オムライスみたいな金沢名物の洋食をレストランで食べた。見た目よりボリュームがあって、白身魚の肉が凝縮フライになっていて卵と 混ざって美味しい。明日ゆっくり見る予定の 21世紀美術館のほうへ小道を歩いて行く。書店で「そらあるき」という小さな町歩き本を購入。金沢の若いお店の人たちが作っているようで、地図が見やすく て実用性もありつつ、読み物なども充実しているしっかりした素敵な本だった。
通りに面したジャズバーの窓を「どんなのをやってるのかな」と覗いてみたら、遠藤ミチロウの写真が額に入れてあるのを見かけ、「おっ」と思ってたら、すぐ 横のチラシに「早川義夫、HONZI ライブ・音楽が降りてくる夜」とある。「何っ?!」しかも今夜ではないか!!興奮し、開店前の店に入る。チケットがまだありますかと訊くと、あるので求め る。すごい偶然なんですとオーナーのおじさんに話してしまった。ここは、以前にライブ記事で名前を見たことがある「もっきりや」だったのだ。
「がんばれチヨジ」だよ!と一人うるさくなってしまう。
一度、ホテルにチェックインしてから、ライブに向かうことにした。ホテルは温泉のあるところにして良かった。うーんごくらく。この後にライブもあるかと思 うと、楽しみが重なって嬉しい。旅先で偶然にも早川義夫に HONZI、雰囲気のいいジャズバー、ごにょごにょごにょ。ホテルの部屋にあった左内正史の写真が、なんでもなくて良かった。
もっきりやの壁に「この七つの文字」と「There three words」が見えた。高松次郎だ。その手前に大きなピアノがある。お客さんととても近い。僕らが着いた頃は、もう満席に近かった。ビールとウインナーを頼んだ。
以前、早川義夫のライブを見に行ったのは名古屋のクワトロで一人だった。サングラスにスーツ、MC は何も無く「どうもありがとう」だけを言っていたのを覚えている。
今夜のライブは、話しかけるだけの間合いの MCがあって、HONZI が入ってからは、もっと優しく歌っていた。HONZI とMCを交わすことがなくても、音と歌は向き合って、深く大きな広がりを生み、そのままにあった。僕らは息を飲み、手を叩いて、また息を飲んだ。身体をゆ すって、心をえぐり出して、奥底を見つめた。開いたそれは風と水と沈黙が抜ける音楽だった。コンクリートの堤防に上って、海の近い川沿いから夕方の空を前 にしている気持ちになった。それらは生き死にを共にしていて、惨めで残酷で、優しくてきれいだった。そのままの言葉と音楽、そのままの歌だった。
ライブが終わって、そういう気持ちを話せばよかったのに、僕は要らない余計なことを話してしまった。緊張のあまり、早口になって蛇足に落ち込むのが悪い癖で、これは僕自身の社会性や、表現能力に深く関わる問題の一端なのだと帰り道に思う。
でも早川さんに感動しましたと言えて、嬉しかった。
大切な人と、大切な歌を聴くことができて嬉しかった。
HONZI のソロCD を部屋で聴こうと盛り上がって歩いたが、プレイヤーだと思っていたのはテレビのチューナーだった。でもまた聴くことができる。
もっきりやにまた行こうと話すだろう。
http://www.soraaruki.com/
http://www.spacelan.ne.jp/~mokkiriya/
http://www15.ocn.ne.jp/~h440/