水曜日, 8月 01, 2007

どんぶりくん

蕎麦を食べたのは昨日、今日は清水港で海鮮ものをと市場へ行くが、あいにくの定休日で市場の建物が閉まっていた。
だが、駐車場の脇隅のトイレ奥から 地元のサラリーマンや漁師らが出入りするのを見つけた。壁に手書きで「どんぶりくん」と店名がある。これは行かねば!

入るなり、おばちゃんがまくしたててくる。
「そこカウンター、入り口だから座れないから、空いてるとこに座って!」
「下の白い紙のメニューはすぐ出来る。上の色が付いた紙のメニューは時間かかるよ。」
「言って!言って!」

店内はおじさんらで満席。給仕のおばちゃん、調理と会計係のおばちゃん、カウンター前で洗い物をするおばちゃん、Tシャツにキャップで調理をする小太りの おっちゃんがせわしなく動いている。給仕のおばちゃんが「言って!」と急かすのは注文だが、要求しながらも我々の近くにはおらず、別のお客さんに提供をを しながら聞いている。
恐る恐る大きな声で言うと、注文が通った。
「バチにシラスひとつずつー!」
おばちゃんの大きな声。バチマグロ定食と、シラス丼。どちらも下段に並ぶ、早くできるというもの。よく出ているだろうから、これらが一番ベストだろう。
しかしメニューをよく見ると、シラス定食という類似した料理があったり、海鮮ものに混じってハンバーグ定食や、カレーライスまである。どんぶりくんと言っているわりには丼が少ない。
と思っていたら、中年のサラリーマンが、上の段にあるコロッケカレーを頼んだ。
「コロッケカレー、時間かかるよ!」
おばちゃんの声色が強くなった。
「コロッケするのー?」
台所から おっちゃんが聞いてくる。フライパンに油を入れる手前で止めながらだ。
客は注文を変えた。
「コロッケしないよー!」

バチマグロ定食は人気だ。それからバチの連呼だった。
「バチなくなったよー!」
慌てて、おばちゃんがバチマグロの紙を外す。しかしそれからすぐして別の客に、
「バチのこりひとつで終わりねー」
と提供していた。先にバチを注文した客には行かず、後注文の客に出してしまっていた。おばちゃんは威勢良く動き回っているから、凄いのかと思いきや・・。
さっきから皿が足りないという声が聞こえる。カウンター前のおばちゃんは無言でせっせと洗っている。食器洗浄機など無いので、たいへんそうだ。いや、食器が足りなさ過ぎるのだろう。一つのメニューには小鉢がたくさん並べられている。
「バチ!バチ!」
と言う声のなか、食べたバチマグロとシラス丼は実に美味しい。シラスは山盛りで、イクラと相性も良く、バチマグロは脂がのっていた。
「言って!言って!」
「カキフライ時間かかるよー!」
途中、入ってきながら止めると出ていった客がまた入ってくるという迷惑な展開があり、追い返しているような場面も。
しかしいや、本当に美味しいので、この状況も活気なのだ。
調理補助のおばちゃんがホールに出てきたりと、次から次へと限界ギリギリのオペレーションが続いていた。
食べ終えて会計を済ましたとき、僕は気付かなかったのだが、壁には おばちゃんたちが富士高原で笑う爽やかな記念写真が飾ってあったという。

店を出てからも、頭から「バチ!」が離れなかった。