文字通りまだ夜も明けきらぬ頃に、駅まで弟に送ってもらった。考えてみれば、弟も車を運転できるわけだ。数時間前に歩いた道を超えて行く。始発で名古屋に 戻る。そのまま高速バスセンターで合流して、金沢へ向かった。いろんな勘違いがあったけれど、大切な顔ぶれだったから大切な時間にしたくて、ずんずん行っ た。
おまつを飾ったお寺に、兼六園の周囲にある金物屋に古書店。
近江町市場で回転寿司。青のりを手のひらに乗せてもらってもぐもぐ。
堅町のアンティーク店でお話をし、教えて頂いた 純喫茶ローレンスに行く。五木寛之が小説を執筆をしていて直木賞を受賞した瞬間もこのお店だという。いつもここで書いていましたという席で、当時 一杯で五時間はねばっていましたというコーヒーを飲んだ。
アルバムを見せて頂くと、たくさんの著名人の顔ぶれが。橋本治も来てる。桃尻娘の撮影もしてたのか。
僕だけが名古屋への帰路に就くため、バス停で見送ってもらった。最後の最後になって大切な話というのは話さなくてはと、かたちになってくるみたいだ。その 思いからは目を離すことができない。僕はそれから一人で座席のベルトをして起きれば朝のつもりで眠ったが、これは深夜バスではないから十時台には着いた。
名鉄で帰宅し、プリンを買いにコンビニへ行った。
路上で歯を磨いていた隣人のおやじさんが「お前も俺に似てお人好しなんだよ」と言ってきた。どこかわざとらしい映画のようだと思った。いや、いろいろ眠るまでに言葉をたぐろうとしたが、お人好しで自分勝手なのは両立すると結論に至る。
やさしい顔を撫でる思いに、そのまま向かおう。
いろいろ思い出すことを。