土曜日, 5月 27, 2006

何故見つけられないのか

不眠有休で味噌蔵へ二枚の額を運び、壁に立てかけた。
誰もいない朝七時の蔵二階。乱雑に見える蔵の収蔵物と同列に額を置くと、一気に並列した空間を征するように見えた。窓側の壁にもう一枚。対になるようにして、気持ちが落ち着く。
やがて荒川さんが見え、昨晩遅くまで制作などをしていたであろうメンバーらがやってきた。
猫の鬱による挨拶。基本的に鬱は人間の女性が好きだ。野郎は常に苦手である。
僕らがプラン展で受付などをやっていた間も、鬱は部屋で眠っていただろう。いろんな方と話をすることができた。天気予報とは異なり、一日中晴れで持ちこたえてくれた。
先日、僕のフライングで搬入に行ってしまった西山氏のグループ展を見に行く。大学ギャラリーの小さな部屋が、熱気のある絵で埋められていた。学食でお昼をとり、壁面にできた抽象絵画のような黒カビに驚く。御飯は美味しかったが、ショックで気持ち悪くなる。
猫の鬱から、月曜に新規バイトの面接だニャと取り次ぎ連絡が入る。味噌蔵に戻るときに。留守番電話に潜り込まぬよう、僕は手帳にメモをした。

蔵の中庭に島さんの作品が点在設置されていた。彼女が何気なく、ここに並んだ三点とは別にもう一点あると言ったらしい。本当に何気なくだったらしかったそ れに、皆も何気なく探していたのだけれど、十分を過ぎ、二十分を過ぎて探している間に冗談は少なくなり、皆の本気の探索スイッチが入ってしまった。
ここにいられる時間を惜しんで、延々と居ることができる一杯は誰もが地面を見回した。ある者は地面に這いつくばり、ある者はヒントをせがみ、推理に推理を 重ね、自分の常識を何度も覆し、それを自分で裏切っては保ちながら、ずっとどこかにあるというもう一点を探し続けていた。
はじめ面白がっていた島さんも、どこかで申し訳なく感じたのかもしれない。もういいよを繰り返していたが、こういう障害にこびりつく気質の人間は止められない。久しぶりに会った門間氏が「男は探すのが好きなんだなァ」と地面に呟いた。 最後は僕と、西山氏と福岡氏だけで夜七時過ぎ。
プレ展の開場時間はとっくに終了していた。
暗くなってきて探しにくい。
疲れはて、もともと隠すつもりで置いていないというそれを、何故見つけられないのか、かなり限定された面積なのに何故見つけられないのかという悔しさでいっぱいになった。
諦め、やりきれなく、帰宅した島さんに電話をする。泣きついて答えを聞こうとした。しかしおそらく彼女は移動中か何かで通話が出きなかった。
各自がフラフラ、家路に着く。
いちばん気持ち悪いと悔しがっていたのは西山氏であったように見えた。僕は寝ていないことも手伝って、ハイを通り過ぎ、分らなくなり、帰ったと同時にテレビの前でつっぷした。睡魔は見事に僕の身体を押さえつけ取り巻き、眠りへと誘った。
実に深い眠りだった。
暗いラインでベースギターが鳴っている。
甘ったるいボーカル。女装した男性なのか、男装した女性なのか。
ふんわりと快楽の中で目覚め、数時間のトリップは徹夜と一仕事がもたらす体験で、酸素など無理に入れなくても水は充分に美味しい。
レタスを皿に大盛り。マヨネーズ和えのサラダスパ。
茹でさやえんどうと焼きシシャモ。
重役秘書の猫の鬱さんにお裾分け、舌なめずり。あちちと猫舌っぷりをみせる。
僕の記憶回路は謎の高速回転をし、何故か数日前に見た昼ドラの「我が輩は主婦である」(TBS/2006)のことを鮮明に思い出す。劇中に溢れる言葉の使い方が面白かったんだ。
煙草でも吸えたら、落ち着けそうだった。

http://www.tbs.co.jp/ainogekijyo/syufudearu/